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東京地方裁判所 平成9年(ワ)21840号 判決 1998年4月24日

東京都千代田区麹町一丁目七番地

原告

プルデンシャル生命保険株式会社

右代表者代表取締役

河野一郎

右訴訟代理人弁護士

進藤功

前田陽司

中野雄介

東京都港区西新橋一丁目一八番六号

被告

プルデンシャルライフツアージャパン株式会社

右代表者代表取締役

川口憲一郎

右訴訟代理人弁護士

宍戸金二郎

主文

一  被告は、東京法務局港出張所平成九年三月一日変更に係る商号変更登記の抹消登記手続をせよ。

二  被告は、その営業上の施設または活動に「プルデンシャルライフツアージャパン株式会社」、「プルデンシャルライフツアー」、「プルデンシャルライフツアージャパン」、「Prudentialife」、「Prudentialife Tours Japan,Inc.」、その他「プルデンシャル」、「Prudential」、「プルデンシャルライフ」または「Prudentialife」の文字を含む営業表示を使用してはならない。

三  被告は、看板、印刷物、その他の営業用物件から「プルデンシャル」、「Prudential」の文字を含む標章を抹消せよ。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  主文第一項、第三項及び第四項と同旨

二  被告は、その営業上の施設または活動に「プルデンシャルライフツアージャパン株式会社」、その他「プルデンシャル」、「Prudential」、「プルデンシャルライフ」または「Prudentialife」の文字を含む営業表示を使用してはならない。

第二  事案の概要

一  本件は、被告が平成九年三月一日、現在の商号に変更し、後記被告表示を使用していることは、不正競争防止法二条一項二号の定める不正競争行為に該当すると主張して、原告が被告に対し、同法三条に基づき、商号変更登記、被告表示の使用差止等を請求している事件である。

二  前提となる事実

1  当事者

(一) 原告は、生命保険業を営む株式会社である。(甲一、甲二ないし七、甲九)

(二) 被告は、旅行業、損害保険代理業及び生命保険募集に関する業務等を目的とする会社である。被告は、もとは「ラジャーツァージャパン株式会社」の商号であったが、平成九年三月一日、現在の商号に変更した。(甲二、甲一八)

2  原告の商品等表示

原告は、生命保険業の営業を行うにあたり、会社案内や広報誌等に、「プルデンシャル生命保険」(以下「原告表示一」という。)とともに、「Prudential」(以下「原告表示二」という。)、「プルデンシャル生命」(以下「原告表示三」という。)、「プルデンシャル」(以下「原告表示四」という。)の表示(以下、一括して「原告表示」という。)を、自己の営業の商品等表示として使用している。(甲一、甲三ないし七、甲八の一ないし三三、三六ないし四一及び四三ないし六七、甲九)

3  被告の行為

被告は、「プルデンシャルライフツアージャパン株式会社」(以下「被告表示一」という。)の商号のほか、「プルデンシャルライフツアー」(以下「被告表示二」という。)、「プルデンシャルライフツアージャパン」(以下「被告表示三」という。)、「Prudentialife」(以下「被告表示四」という。)、「Prudentialife Tours Japan,Inc.」(以下「被告表示五」という。)の表示(以下、一括して「被告表示」という。)を用いて、フィリピン向け海外旅行のうち、フィリピン国内旅行の部分の手配を主たる業務として、営業を行っている。(争いがない)

三  争点

1  著名性

(一) 原告の主張

原告は、米国のプルデンシャル保険会社(以下「米国会社」という。)の全額出資子会社であるところ、米国会社は一八七五年に創業し、一九七四年からは全米第一位の保険会社となっている。

原告は、昭和六二年の設立以来、日本全国において積極的な営業活動を展開しており、平成八年には日本国内において四四万件以上の保険契約を保有し、収入保険料九四〇億円余、従業員一六〇〇人以上を擁する企業に成長している。原告の四四万件の保険契約において「プルデンシャル」「プルデンシャル生命」の名称が使用され、顧客に広く知られている。また、原告は一三〇〇名以上の「ライフプランナー」と称する営業職員を投入して、原告の生命保険のセールスを行っており、このような営業活動を通じて、日本国内において少なくとも数百万人が「プルデンシャル」、「プルデンシャル生命」あるいは「プルデンシャル・ライフ」の名称を直接見聞する機会をもっている。

また、原告は、旧来の常識にとらわれない営業活動を行い優れた営業効率を達成して成長している生命保険会社として、マスメディアにも頻繁に採り上げられており、数千万人単位の人々が、「プルデンシャル」、「プルデンシャル生命」あるいは「プルデンシャル・ライフ」の名称をマスメディアを通して知っていると考えられる。

原告は、その設立当初から、米国プルデンジャルの資金力をバックに全国展開をしており、昭和六三年七月には全国一〇都市に支社を設立して営業を開始した。したがって、原告の商品等表示である「プルデンシャル」「プルデンシャル生命」「プルデンシャル・ライフ」及びこれらの英語表記である「Prudential」「Prudential Life」は、原告が本格的に営業を開始した昭和六三年七月当初から既に著名であったと考えられるが、仮にそうでなくても、被告が現在の商号に変更した平成九年三月には既に著名性を獲得してから数年を経過していたことは疑いない。

(二) 被告の反論

「プルデンシャル」「プルデンシャル生命」が我が国において著名であるとの事実は否認する。特に、生命保険以外の分野では著名ではない。

2  類似性

(一) 原告の主張

被告表示は、原告の著名な商品等表示である「プルデンシャル」及び「Prudential」の文字を使用しており、右商品等表示と類似している。更に、被告表示は、「プルデンシャルライフ」及び「Prudentialife」の文字を使用しているが、これは、原告の商号の要部をなす「プルデンシャル生命」とも類似している。

(二) 被告の反論

原告の営業表示は生命保険の分野であり、被告の営業表示は旅行業の分野である。右は表示自体から明白であり、営業表示に類似性はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(著名性)について

1(一)  米国会社は、アメリカ合衆国でも最大の生命保険会社であり、原告は、米国会社が一〇〇パーセント出資して、昭和六二年一〇月一四日に設立され、翌昭和六三年二月、大蔵大臣から生命保険事業の営業免許を取得し、当初から、仙台、大宮、船橋、上野、町田、横浜、名古屋、大阪、広島、福岡の一〇都市に支社を設置して、同年四月から生命保険業務を開始した。(甲一、甲八の一、三四及び三五)

(二)  原告は、平成四年一〇月には、日本国内では初めて、余命六ヶ月以内と判断された場合には死亡保険金を生前に支払うという「リビング・ニーズ特約」付きの生命保険を売り出して話題となった。(甲四、甲六、甲七、甲八の二、三、一二ないし一四、二〇、二三ないし二八、三二、三六、三七及び四〇、甲九)

(三)  また、原告は、契約の時から死亡保険金の支払いまで顧客を担当するという「ライフプランナー制度」を導入して、オーダーメイドの生命保険を売り物とし、後記のとおり、新聞、雑誌等でも紹介された。(甲一、甲三声ないし七、甲八の六、一八、一九、二一、二二、二七ないし二九、四〇、五三、五五及び五八、甲九)

(四)  原告の保有契約件数は、昭和六三年度が七〇〇〇件余り、平成元年度が二万二〇〇〇件余り、平成二年度が四万六〇〇〇件余り、平成三年度が八万三〇〇〇件余り、平成四年度が一三万五〇〇〇件余り、平成五年度が二〇万件余り、平成六年度が二八万件余り、平成七年度が三六万件余りと急激に増加しており、保有契約保険金額も昭和六三年度が九六四億円、平成元年度が三一〇三億円、平成二年度が六八八三億円、平成三年度が一兆二七二六億円、平成四年度が二兆一六五八億円、平成五年度が三兆三六六五億円、平成六年度が四兆八三二四億円、平成七年度が六兆二五八二億円と激増している。(甲三、甲四、甲六)

そして、平成八年度決算における保有契約件数は四四万一八一五件、保有契約高は七兆六五六九億円、収入保険料は九四三億円、総資産額は一七三八億円であり、右決算期における総資産の前期比増加率は約四五・五パーセントであって、日本国内の生命保険会社中右増加率は第一位であり、収入保険料の前期比増加率も約二二・二パーセントと、国内第一位であった。(甲一、甲八の五、五二、五三及び五六)

2  原告に関する記事は、米国の大手の生命保険会社である米国会社の日本法人である外資系生命保険会社であることを含めて、昭和六三年以降、日経金融新聞、日本経済新聞、朝日新聞や日経ベンチャーに掲載されたことがあったが、平成六年以降は、日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、日経金融新聞等の新聞紙の他、「日刊ゲンダイ」、「マネージャパン」、「プレジデント」、「週刊読売」等の雑誌に、頻繁に、原告に関する記事が掲載されたり、生命保険業界に関する記事中に、原告の取り扱う「リビング・ニーズ特約」付保険や原告の「ライフプランナー制度」が紹介されたり、業績を伸ばしている外資系保険会社として原告が上げられたりした。そして、右新聞、雑誌等においては、原告を示すものとして原告表示が記載された。(甲三ないし七、甲八の一ないし三三、三六ないし四一及び四三ないし六七)

3  以上のとおり、原告は、設立され、営業を開始してからまだ約一〇年しか経っていないものの、米国の大手の生命保険会社の日本法人であり、当初から特色のある営業方針を打ち出して業績を伸ばし、前記のとおり、原告表示は新聞や雑誌等にも頻繁に掲載されていたのであり、これらの事情を総合すると、原告表示は、少なくとも平成九年三月までには、原告の生命保険営業を表示するものとして我が国において著名であったと認めることができる。

二  争点2(類似性)について

1  原告表示一は、片仮名の「プルデンシャル」と漢字の「生命保険」とを、続けて縦書きまたは横書きしてなるものであり、原告表示二は、欧文字で「Prudential」と横書きしてなるもので、「プルデンシャル」の称呼を生ずるものであり、原告表示三は、片仮名の「プルデンシャル」と漢字の「生命」とを、続けて縦書きまたは横書きしてなるものであり、原告表示四は、片仮名の「プルデンシャル」を縦書きまたは横書きしてなるものである。

2(一)  被告表示一は、片仮名の「プルデンシャルライフツアージャパン」と漢字の「株式会社」とを続けて縦書きまたは横書きしてなるものである。

被告表示一のうち、「ツアー」の部分は「旅行」という意味の、「ジャパン」の部分は「日本」という意味の英語に由来する同じ意味の外来語として、それぞれ一般的に良く認識されており、「ツアー」の部分は旅行取扱業という被告の業種を表すものと一般に理解され、「ジャパン」の部分は被告の所在地あるいは営業範囲を表示したものと一般に理解されることが認められ、いずれも識別力はないものと認められる。また、「株式会社」の部分は、被告の会社組織の種類を示したものであり、やはり、識別力はない。残りの「プルデンシャルライフ」のうち「プルデンシャル」の部分は、「慎重な」、「分別のある」等の意味の英語の形容詞を片仮名で表記したものと認められ、そのような英語の意味は、我が国において一般に広く認識されているものと認められる証拠はないが、「プルデンシャル」の語は六音節からなり、長過ぎることはなく、発音しやすいことから、意味不明ではあっても、特徴ある表示部分として一般需要者に認識されるものと認「められること、我が国においては、原告と米国会社の使用するもの以外に、「プルデンシャル」の語が商品等表示として使用され、社会的に認識されているものがあるとは認められないこと、これに対し、「ライフ」の部分は「生命、生活、人生」という意味の英語に由来する同じ意味の外来語であることは一般的に認識されており、「プルデンシャルライフ」の語は、意味の上では「プルデンシャル」と「ライフ」の部分に分かれるものと認識されること、「プルデンシャル」の部分が前に位置し、七文字六音節と長く、「ライフ」の部分は、後に続き、三文字三音節と短いこと、及び、前記のとおり、原告表示四が著名であることを考慮すると、被告表示一の要部は、「プルデンシャル」の部分にあるものと認められる。

そこで、被告表示一の要部と原告表示四とを対比すると、両者は、構成する文字が同一であるから、外観も「プルデンシャル」という称呼も同一であり、被告表示一は原告表示四と類似すると認められる。

(二)  被告表示二は、片仮名の「プルデンシャルライフツアー」を縦書きまたは横書きしてなるものである。そして、(一)と同様の事情を考慮すると、被告表示二のうち、識別力があるのはやはり「プルデンシャル」の部分であり、右部分が要部であると認められる。

そこで、被告表示二の要部と原告表示四とを対比すると、両者は外観も「プルデンシャル」という称呼も同一であり、被告表示二は原告表示四と類似すると認められる。

(三)  被告表示三は、片仮名の「プルデンシャルライフツアージャパン」を縦書きまたは横書きしてなるものである。そして、(一)と同様の事情をすると、被告表示三のうち識別力があるのはやはり「プルデンシャル」の部分であり、右部分が要部であると認められる。

そこで、被告表示三の要部と原告表示四とを対比すると、両者は、外観も「プルデンシャル」という称呼も同一であり、被告表示三は原告表示四と類似すると認められる。

(四)  被告表示四は、欧文字の「Prudentialife」を横書きしてなるものであり、「プルデンシャライフ」の称呼を生ずるものと認められる。右表示が外国語の一部であることを認めるに足りる証拠はなく、被告表示四が被告表示一ないし三と共に使用されることもあることからすれば、被告表示四は、「Prudential」の語と「life」の語を「1」の文字を共通にして結合させた一語の新造語と認められる。

そこで、被告表示四と原告表示二とを対比すると、一三文字からなる被告表示四の最初の一〇文字が著名な原告表示二と共通することを考慮すると、被告表示四の外観は原告表示二の外観と類似する。称呼も、被告表示四は「プルデンシャライフ」であるのに対し、原告表示二は、「プルデンシャル」で、被告表示四の称呼が全体で八音節からなるうち、最初の五音節が原告表示二の最初の五音節と同一であって、被告表示四の称呼の六音節目と原告表示二の六音節目が子音を同じくすること、被告表示四の称呼の七音節目と八音節目は、被告表示四全体の称呼の中では強く発音される音節ではないことを考慮すると、被告表示四と原告表示二の称呼は、類似するものと認められる。これらの点を考慮すると、被告表示四は原告表示二と類似すると認められる。

(五)  被告表示五は、欧文字の「Prudentialife Tours Japan,Inc.」を横書きしてなるものである。

被告表示五のうち、「Tours」については「旅行」という意味の、「Japan」については「日本」という意味の、「Inc.」については「株式会社」という意味の英語であることは、それらが原語のまましばしば世上使用されることから、我が国で一般的に認識されているものと認められ、「Tours」については被告の業種を、「Japan」については被告の所在地あるいは営業範囲を、「Inc.」については被告の会社組織の種類を示した言葉であって、いずれも識別力はないと認められる。「Prudentilife」の部分は、(四)に認定したとおりの新造語と認められ、被告表示五のうち識別力があるのは右の部分であり、右部分が被告表示五の要部であると認められる。

そこで、被告表示五の要部と原告表示二とを対比すると、(四)に判断したとおり、両者は外観は及び称呼が類似するから、被告表示五は原告表示二と類似すると認められる。

(六)  (一)ないし(五)に認定判断したこと及び前記のとおり原告表示が著名であること、「Prudential」、「プルデンシャル」との英語の本来の意味は我が国では一般に広く認識されておらず、原告と米国会社の使用するもの以外に「プルデンシャル」の語が商品等表示として使用され、社会的に認識されているものがあるとは認められないことを考慮すると、「プルデンシャル」、「Prudential」、「プルデンシャルライフ」、「Prudentialife」の各文字を含んだ表示は、原告表示と類似すると認めるのが相当である。

3  したがって、原告の被告に対する被告表示一の商号への変更登記の抹消請求、被告表示一、「プルデンシャル」、「Prudential」、「プルデンシャルライフ」、「Prudentialife」の文字を含み被告の現に使用する被告表示二ないし五、その他弁論の全趣旨によって被告が使用するおそれの認められる「プルデンシャル」、「Prudential」、「プルデンシャルライフ」、「Prudentialife」の文字を含む商品等表示の使用差止請求(第一、二記載の請求は、被告表示二ないし五の使用差止請求を含むものと認められる。)、看板、印刷物その他の営業用物件からの「プルデンシャル」、「Prudential」の文字を含む標章の抹消請求は、理由がある。

(裁判官 八木貴美子 裁判長裁判官西田美昭は転補のため、裁判官池田信彦は転官のため、いずれも署名押印することができない。 裁判官 八木貴美子)

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